このシリーズは全7回。基軸通貨ドルが抱える構造的な問題と、日本人投資家の視点からトランプ外交を読み解く。

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トランプ政権が関税に踏み切った動機は理解できる。アメリカから富が流出している——この問題意識は正しい。2024年の米国の財貨貿易赤字は9,184億ドル(対中2,954億ドル、対日685億ドル)に達しており、輸入超過が続いてきたのは事実だ(出典:米商務省BEA)。

しかし関税という道具は、その問題を解決しない。むしろ、苦しんでいる人をさらに苦しめる。

関税を払っているのは誰か

関税は輸入業者が支払う税だ。しかし実際のコストは消費者に転嫁される。ニューヨーク連銀の研究によれば、関税負担の90%はアメリカの消費者が負担している。Kiel研究所の試算ではその割合は96%に達する。

Tax Foundationの推計では、トランプ関税による一般的なアメリカ世帯の負担増は年間1,000〜1,500ドル。前回見た利上げによる住宅ローン・クレカの重荷に、さらに関税コストが乗っかる形だ。

政府が関税で得た収入はFY2025に195億ドル(出典:CRFB)。前年の79億ドルから150%増と聞こえは良いが、消費者側が支払っているコストとは桁が違う。1億3,000万世帯が1世帯あたり1,250ドル払うとすれば、総負担は約1,600億ドルに達する。政府の関税収入195億ドルの8倍以上——そのギャップは国民の生活コスト増として消えている。

方向は正しい、道具が間違っている

トランプが解こうとしている問題——富の国内回帰、雇用の維持、アメリカの産業基盤の強化——の方向性は間違っていない。

しかし関税というツールはその目的に届かない。関税は貿易フロー(モノの流れ)に課税するが、アメリカが失っている富の本丸は資本フロー(利払いの流れ)だ。毎年2,600億ドルが海外債権者に流れていることは、どんな関税をかけても止まらない。

さらに関税は、前回見たドル高の恩恵を相殺する。ドルが強くなって輸入品が安くなっても、25%以上の関税がかかれば消費者の支払いは以前より増える。助けようとした国内産業を守る前に、助けようとした国民の財布を先に傷つける。

関税は税であり、補助金ではない

もうひとつ重要な点がある。関税収入は一般歳入に入るが、苦しむ労働者に直接届く仕組みはない。トランプ関税で政府の収入は増えたが、その恩恵が製造業の雇用者や家計に届くかどうかは、別の政治的意思決定次第だ。

正しい診断、間違った処方箋——それがトランプ関税の本質だ。では正しい処方箋とは何か。


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