本記事はNVIDIAシリーズ第3回です。第1回はこちら、第2回はこちら。
「並列処理」は物理的な問題でもある
第1回でGPUの強さを「100人の営業マンが同時に動くショットガンフォーメーション」と表現した。
ここで問いが生まれる——その「100人」をどこに収めるのか。
GPUチップの中には数十億個のトランジスタ(電気信号のスイッチ)が詰め込まれている。並列処理を増やす=トランジスタを増やす=より小さく、より密に配置する必要がある。
最先端のNVIDIA H100 GPUに使われるTSMCの製造プロセスは4ナノメートル。次世代は3ナノメートルに向かっている。
1ナノメートルは10億分の1メートル。髪の毛の太さは約8万ナノメートルだ。4ナノメートルとは、髪の毛の2万分の1の世界だ。シリコン原子の大きさが約0.2ナノメートルなので、もはやトランジスタは原子数個分の厚みしかない。
なぜここまで小さくしなければならないのか
AIの計算量は指数関数的に増えている。
GPT-3(2020年)は1,750億パラメータ。GPT-4は推定1兆パラメータ以上。次世代モデルはさらに大きくなる。これを現実的な消費電力・発熱で処理するには、トランジスタを小さくして密度を上げるしかない。
「大きいチップを作ればいい」という発想には限界がある。チップを大きくすると、信号が端から端まで移動する距離が伸びて速度が落ち、発熱が増える。スタジアムを大きくすれば観客は増えるが、選手の移動距離も増えてプレイが遅くなる——そういう問題だ。
小さく、速く、省電力——この三位一体を追求することが、半導体産業の宿命だ。
「塵も入らない」世界を作る仕事
4ナノメートルのトランジスタを作るには、極めて純粋な素材と、極めて清潔な環境が必要だ。
チップを作る工場(ファブ)のクリーンルームは、外気の100万分の1の塵しか許容しない。手術室より1000倍以上クリーンな空間だ。作業員は全身スーツで覆われ、静電気すら管理される。
ここに日本企業の出番がある。
シリコンウェーハ(チップの土台) チップはシリコンの円板(ウェーハ)に回路を刻んで作る。このウェーハは99.999999999%(イレブンナイン)という極限の純度が求められる。信越化学工業(4063)とSUMCO(3436)は世界シェア合計で約60%を占める。代替品は存在しない。
フォトレジスト(回路を描く「インク」) 回路パターンをウェーハに転写するための感光剤。3ナノメートルの精度で描くには、分子レベルで均一な素材が必要だ。JSR(4185)・東京応化工業(4186)・信越化学が世界シェアの大半を握る。
製造装置 回路を描くための露光装置はオランダのASMLが独占しているが、その他の洗浄・成膜・エッチング装置では東京エレクトロン(8035)が世界トップ3に入る。TSMCやSamsungのライン増強は、東エレクの受注残に直接現れる。
テスト装置 完成したチップが正常に動くかを検査する。AI向けチップは複雑なため検査も高度化している。アドバンテスト(6857)は半導体テスト装置で世界シェア約50%を持つ。
「作れる国」が減り続けている
半導体の微細化は、参入障壁を年々高くしている。
最先端チップ(3〜5ナノメートル)を量産できる企業は現在、世界でTSMCとSamsungの2社のみだ。Intelは遅れを取り戻そうとしているが苦戦中。中国は米国の輸出規制により最先端装置にアクセスできない。
この「作れる国が2つしかない」という構造は、AIブームが続く限り変わらない。そしてその2社に素材と装置を供給しているのが、主に日本企業だ。
NVIDIAがソフトウェア(CUDA)で堀を持つように、日本の素材・装置企業は物理的な精度と長年の技術蓄積で堀を持っている。
日本サプライチェーン企業の見方
| 企業 | 役割 | NVIDIA需要との繋がり |
|---|---|---|
| 東京エレクトロン(8035) | 製造装置 | TSMC設備投資 → 直接受注 |
| アドバンテスト(6857) | テスト装置 | AI向け高性能チップ検査需要 |
| 信越化学(4063) | ウェーハ・フォトレジスト | チップ増産 → 素材需要 |
| SUMCO(3436) | ウェーハ | 同上 |
| JSR(4185) | フォトレジスト | 微細化進展 → 高付加価値品需要 |
これらの企業の決算を読むとき、「AI向け需要の伸び」という文脈が背景にあることを意識すると、数字の意味が変わって見える。
まとめ
AIブームはソフトウェアの話に見えるが、その土台には物理的な精度の競争がある。トランジスタが原子に近づくほど、製造の難易度は上がり、代替できる企業は減る。その極限の精度を支えるサプライチェーンに日本企業が深く食い込んでいる——これが「AI時代の日本株」を考えるうえでの核心的な視点だ。
第4回「GoogleのTPU反撃論——NVIDIA一強に亀裂は入るか」は近日公開予定。
出典: 各社IR資料・公開情報をもとに編集部作成 | English version
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