中国が宣言した2万8,000機の衛星コンステレーション計画「GW」。米国のスターリンク6,000機超、AmazonのKuiper3,200機計画と合わせると、低軌道には数万機規模の衛星が飛び交う時代が来る。問題は、それを支える電波帯域が物理的に持つのかという点だ。
電波帯域という有限資源
衛星通信が使う電波帯域は主にKu帯(12〜18GHz)とKa帯(26〜40GHz)だ。これらは国際電気通信連合(ITU)が管理する有限の資源であり、先着順で周波数が割り当てられる。
スターリンクがKa帯・Ku帯を大量に確保したのは2015〜2019年の早期申請によるものだ。中国が2万8,000機の申請を急いでいるのも同じ理由——先に申請した方が優先権を得られるからだ。すでに米中間でITUへの周波数申請を巡る綱引きが始まっている。
数万機が同じ帯域を使えばどうなるか。干渉(インターフェアランス)が発生し、通信品質が劣化する。技術的な対策(周波数再利用、ビームフォーミング)はあるが、物理的な限界は存在する。「衛星が増えれば増えるほど通信が良くなる」は必ずしも正しくない。
ケスラーシンドロームのリスク
電波帯域の問題より、より深刻なリスクがある。宇宙ゴミ(デブリ)だ。
「ケスラーシンドローム」とは、衛星や宇宙ゴミが衝突してさらに破片を生み出し、連鎖的にデブリが増加して特定の軌道が使用不能になる現象だ。1978年にNASAの科学者ドナルド・ケスラーが提唱した理論で、現在すでに低軌道には数万個のデブリが存在すると推定されている。
中国が2007年に行った衛星破壊実験では、単独で3,000個以上のデブリが発生した。各国が何万機もの衛星を打ち上げ、寿命が来た衛星を放置すれば、低軌道はいずれ使用不能になる可能性がある。夜空が衛星だらけになることは、逆説的に「使える軌道がなくなる」リスクと隣り合わせだ。
光通信という次の答え
こうした問題への技術的な回答が、レーザーを使った光衛星間通信だ。
光通信の優位性は3点ある。第一に帯域が広い。電波の周波数帯に比べ、光の周波数帯は理論上1万倍以上の帯域幅を持つ。第二に干渉がない。レーザービームは指向性が高く、他の通信との干渉を起こさない。第三に傍受が困難。軍事利用においても安全性が高い。
日本では2025年1月、JAXAとNECが世界で初めて衛星間での1.8Gbpsの光通信によるデータ伝送に成功した。「だいち4号(ALOS-4)」と静止軌道の光データ中継衛星の間、約4万km離れた衛星間でのリアルタイム通信だ。アンテナ径はわずか14cmと小型化にも成功しており、実用衛星への搭載が現実的な段階に入った。
KDDI総合研究所と京都大学が共同開発した「フォトニック結晶レーザー」は、2025年に約6万kmでの通信を実証。月-地球間(約38万km)の大容量光通信という最終目標に向けて着実に前進している。
電波から光へのパラダイムシフト
衛星通信の歴史を振り返ると、技術の進化は常に「帯域の限界」を突破する方向に進んできた。短波→超短波→マイクロ波→ミリ波という流れは、より高い周波数帯を使うことで帯域を広げてきた歴史だ。光通信はその延長線上にある、次のステップだ。
中国の2万8,000機計画が実現した場合、電波帯域の逼迫は避けられない。その時に光通信インフラを持っている国・企業が、次世代の衛星通信市場を制する。JAXAとNECが世界初の実証に成功した意味は、技術的な自慢だけではなく、このポジション取りとして読む必要がある。
スターリンクが電波通信の覇者であるとすれば、光通信の覇者は誰になるのか。それが次回(#04)のテーマだ。
関連シリーズ: - #01 — ウクライナ戦争は何を変えたのか - #02 — スターリンクは投資を回収できるのか - #04 — 誰が宇宙の勝者になるのか
免責事項 | 本記事は情報提供を目的としており、投資推奨・売買指示ではありません。 URL: ja/analysis/2026/04/satellite-dream-03-spectrum-optical-ja/Save_As: ja/analysis/2026/04/satellite-dream-03-spectrum-optical-ja/index.html