レーザーテック(6920):世界唯一の独占企業がサイクルの谷にいる

レーザーテック(TSE:6920)が手掛けるある製品カテゴリには、競合が存在しない。「シェアが高い」「強い地位を持つ」ではない。競合がゼロだ。

EUV(極端紫外線)マスクブランクス検査装置 — EUV露光で使うフォトマスクのナノメートル級欠陥を検出するプロセス — において、レーザーテックは世界で唯一の供給者だ。TSMCでも、Samsungでも、Intel Foundryでも、先端チップを量産する際には必ずレーザーテックの装置でマスクを検査してからウェーハ露光に入る。

年間売上1兆円超の米検査装置大手KLAも、AppliedMaterialsも、このカテゴリでは製品を持たない。

この独占こそが、レーザーテックを分析するうえで最初に置くべき前提だ。現在の受注サイクルの落ち込みは、この構造を変えない。


数字:サイクルの踊り場、構造的衰退ではない

レーザーテックの決算期は6月末。FY2025(2025年6月期)は好業績だった。

FY2025 通期実績:

指標 金額 前年比
売上高 2,515億円 +17.8%
営業利益 1,228億円 +51.0%
純利益 847億円 +43.3%
営業利益率 48.8% +10pp

営業利益率48.8%。 比較のために言えば、東京エレクトロンの営業利益率は約24%だ。独占企業のマージン構造は競合企業のそれとは別次元にある。

株価が高値から約65%下落した(2026年初にかけて)背景にあるのは受注の減少だ。FY2025の受注額はFY2024のピークから大幅に減少し、2025年6月末時点の受注残は1,163億円に縮小した。

FY2026上半期(2025年7〜12月):

指標 金額 前年比
売上高 1,283億円 -0.6%
営業利益 630億円 -1.1%

受注残を消化しながら売上は横ばいを維持しているが、成長は止まっている。市場が問うているのは「いつ新規受注が戻ってくるか」だ。


なぜ受注が減ったか:技術ではなく投資サイクルの問題

レーザーテックの主要顧客(TSMC、Samsung、Intel、Hoya等のマスクブランクスメーカー)が装置を買わないのは、EUVが廃れたからではない。FY2023〜FY2024にTSMCのN3立ち上げや初期EUV設備増強で大量購入した後、既存設備の稼働に集中する「吸収フェーズ」に入ったにすぎない。半導体製造装置業界で繰り返されてきた典型的なサイクルだ。

FY2025決算説明会でレーザーテック経営陣は明言した。「2026年から受注が回復するという見方に変化はない。」FY2026上半期(2025年12月期)の時点でも、この立場は維持されている。

また同社はFY2026通期業績予想を上方修正した。顧客検収のタイミングが想定より早まったためだ。出荷・検収が順調に進んでいることを示す前向きなシグナルだ。


次の成長トリガー:High-NA EUV

業界の標準EUV(NA=0.33)からHigh-NA EUV(NA=0.55)への移行は、今後3〜5年で最も重要な半導体製造技術の転換点だ。ASMLは2024年にHigh-NA EUV露光装置(TWINSCAN EXE:5000)をIntel Foundryに初出荷し、TSMCやSamsungへの展開は2026〜2028年にかけて進む見通しだ。

High-NA EUVにより2nm以下のロジックノード向けパターニング精度が飛躍的に向上する。そして新世代の露光装置には新世代のフォトマスクが必要になり、そのマスクを検査する新世代の装置が必要になる。

レーザーテックはそれに向けた製品 A200HiT(High-NA EUV対応マスク検査装置)を開発済みだ。直近の決算説明会では「A200HiTについて複数の商談が水面下で進んでいる」とのコメントがあった。顧客評価が初期段階を超えていることを示す表現だ。

これにより、明確で時間軸のある需要トリガーが存在する: 1. 顧客がASMLからHigh-NA EUV露光機を受領する 2. High-NAプロセス用マスクの開発・量産準備を開始する 3. そのマスクを検査するためにA200HiTが必要になる 4. レーザーテックが受注する

競合製品は存在しない。High-NA EUV露光機を購入した顧客は、いずれ必ずレーザーテックの検査装置も購入することになる。

同社はFY2025中に製品ラインアップも拡充した: - ABICS E320:次世代EUVマスクブランクス検査装置(光学系刷新) - PELMIS EPM200:EUVペリクル検査装置(汚染管理向け)

これらは既存顧客向けの追加収益源となり、技術的な飛躍を必要とせずにアドレス市場を広げる。


なぜ誰も競合に入れないのか

当然の疑問として「このマージンで誰も参入しないのか」という点がある。3つの要因がモートを守っている。

1. 物理・光学の複雑さ。 EUVマスクブランクス検査はEUV自体よりも短い波長の光源・検出器が必要で、数十年にわたる物理・光学研究の蓄積が土台になっている。この知識は一朝一夕に代替できない。

2. 顧客認定の壁。 TSMCやSamsungは生産ラインの中核となる装置を途中で切り替えない。新規参入者が検査装置を顧客に認定してもらうには、フル・プロセス統合での動作実証が必要で、数年単位の時間と顧客のエンジニアリングリソースが必要だ。技術的な問題より、顧客の機会コストが障壁になっている。

3. 市場規模が小さすぎる。 EUVマスク検査の年間装置市場は1,000〜1,500億円程度と推定される。独占企業には十分だが、新規参入者が数千億円のR&Dを投じて参入を正当化できる規模ではない。KLAにとっては、10〜20倍の規模を持つウェーハ検査・プロセス制御ビジネスに集中した方が合理的だ。


投資判断の論点

レーザーテックは「構造的テーゼ(独占・EUV拡大・High-NA触媒)が明確に正しい」一方で「近期の実態(受注トラフ・高値比-65%・FY2026は微成長)が悪い」という状況にある。

強気シナリオ:FY2026後半〜FY2027にHigh-NA EUV受注が本格化し、受注額がFY2024ピーク水準に回帰。独占+成長再加速の評価で株価が高倍率に戻る。FY2027純利益は1,500億円に近づく。

弱気シナリオ:High-NA EUVの本格稼働が2027年以降に延期。受注回復が会社見通しより遅れ、高いバリュエーションが圧縮される。

ベースシナリオ:回復は本物だが緩やか。FY2026通期(7月発表)で安定化を確認。A200HiTの受注がFY2027にかけて積み上がる。独占は消えず、再加速に時間がかかるだけ。

投資サイクルのトラフにいる独占企業で、次の需要波(High-NA EUV)が明確かつ時間軸が見えている状況は、歴史的にみて有利なエントリーセットアップとなることが多い。


出典: レーザーテック IR | English version

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