本記事はNVIDIAシリーズ第4回です。第1〜3回はこちら。
Googleの収入の75%は「検索」で成り立っている
まず事実から始めよう。
Googleの親会社Alphabetの2025年度売上高は約3,500億ドル。そのうち広告収入が約75%を占め、その大半は検索連動型広告——つまり「GoogleでXXXを検索した人に、XXXに関連する広告を表示する」ビジネスだ。
このビジネスモデルの前提は「人々がGoogleで検索する」ことだ。
ChatGPT、Claude、Gemini——AIアシスタントが「調べる」行為を代替し始めている。旅行先を調べる、料理レシピを探す、製品を比較する——かつてGoogle検索が担っていた場面で、AIに「聞く」習慣が静かに広がっている。
Googleにとって、これは自社の収益基盤への直接的な脅威だ。
しかしGoogleは消火ホースも売っている
ここが面白いところだ。
GoogleはTPU(Tensor Processing Unit)という独自のAIチップを2016年から開発・運用してきた。現在の最新世代はTPU v7(コードネーム:Ironwood)で、前世代比4倍のAI推論性能を誇る。
このTPUをGoogleはNVIDIAのように外販しない。代わりにGoogle Cloud経由でサーバーとして貸し出す。AIを動かしたければ、Googleのデータセンターに計算をお願いする形だ。
2025年、AnthropicはGoogleと数百億ドル規模のTPU契約を締結し、2026年中に100万チップへのアクセスを確保した。Metaも自社データセンターへのTPU導入を検討中と報じられている。AppleはApple Intelligenceのモデル学習にTPU v5pを使用したことを技術論文で開示している。
ChatGPTに検索を食われつつあるGoogleが、そのChatGPT的AIを動かす計算インフラを裏で売っている——これが現在のGoogleの構図だ。
広告サーバーはAIサーバーになれるのか
ここからは確認された事実と、合理的な推測を分けて論じたい。
事実として言えること: Googleは世界有数のデータセンター運営者だ。世界中に巨大なデータセンター群を持ち、そこには膨大な電力インフラ、冷却システム、高速ネットワーク網が整備されている。これらは広告ビジネスのために構築されたが、AI計算にも同様に必要な基盤だ。土地・電力・ネットワーク——インフラの土台は転用できる。
ただし、チップは転用できない。広告配信サーバーはCPUベースで動いているが、AI推論にはTPU/GPUが必要だ。上物の置き換えには巨額の設備投資が必要になる。
合理的な推測として: もしAI需要がGoogleの広告需要を上回る速度で成長するなら、Googleは既存データセンターのチップをTPUに順次置き換えながら、Cloud AIサービスの収益で広告収入の減少を補う戦略が取れる可能性がある。自社でTPUを設計・運用しているGoogleは、AmazonやMicrosoftよりもこの転換コストが低いと見られる。
ただしこれはあくまで推測だ。広告収入の減少がどの程度のスピードで起きるか、TPUクラウド収益がそれを補えるかは、まだ誰にも分からない。
MetaとGoogleの違い
同じ「AIに広告を食われるリスクを抱えるテック企業」でも、Googleと対照的なのがMetaだ。
Metaは広告収入への依存度がGoogleと同様に高い(売上の約97%が広告)。しかしMetaはTPUのようなクラウド収益源を持たない。代わりにLlama(自社AIモデル)をオープンソースで公開し、AI研究者の支持を集める戦略を取っているが、それが直接の収益に繋がる道筋は現時点では見えにくい。
MetaのAI投資は「将来の広告精度向上」と「メタバース/AR」に賭けている側面が強い。投資家から見れば、Googleほど収益化の道筋が明確でないという見方もある。
NVIDIAの堀は崩れていないが、包囲網が形成されつつある
第1〜3回で述べたNVIDIAの強さ——CUDAエコシステムという20年分のプレイブック——は依然として健在だ。AIチップ市場でのシェアは80〜90%を維持している。
しかし各社の動きは明確だ:
| 企業 | 独自チップ | 狙い |
|---|---|---|
| TPU v7 | クラウドAIインフラ | |
| Amazon | Trainium3 | AWS上のAI学習・推論 |
| Meta | MTIA | 自社SNSのAI処理 |
| Apple | Neural Engine | デバイス上のAI推論 |
| Microsoft | Maia | Azure AI向け |
全員が「NVIDIAへの依存を減らしたい」という動機を持っている。ただし、これはNVIDIAの即座の脅威ではない。各社の独自チップはいずれも特定ワークロード向けで、CUDAのような汎用エコシステムを持たない。置き換えは10年単位の話だ。
投資家が持つべき視点
GoogleとNVIDIAは対立関係ではなく、異なるレイヤーで共存していると捉えるのが現実的だ。
- NVIDIAはチップ設計とCUDAで汎用AI計算市場を押さえる
- Googleはインフラとクラウドで特定顧客(Anthropic等)を囲い込む
- 日本の素材・装置企業はどちらが勝っても恩恵を受ける
Googleが「広告会社」から「AIインフラ会社」へ静かに転換しつつあるとすれば——それは10年単位で見たときの最も重要な構造変化の一つかもしれない。確信はできないが、無視もできない仮説だ。
NVIDIAシリーズ完結。第1〜3回はこちらから。
出典: Alphabet・Meta各社IR資料、公開報道をもとに編集部作成 | English version
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