2026年3月、ホンダが北米EV3モデルの開発中止と最大2.5兆円の損失計上を発表した。各メディアはこれを「EV戦略の失敗」と報じたが、立ち止まって考えてみたい。
そもそも、EVとは誰が望んだ車だったのか。
EU規制、カリフォルニア排ガス基準、ESG投資家からの圧力、政府補助金……自動車メーカーがEVに突き進んだ背景には、環境活動家・政治家・思想家が描いた「あるべき未来」があった。しかし、商品を買うのも買わないのも消費者だ。補助金が切れれば売れ行きが鈍り、充電インフラが整わなければ二の足を踏む。市場は正直だった。
ホンダ:一時損失か、戦略転換か
ホンダ(TSE:7267)は、北米向けEV3車種(Honda 0 SUV・Honda 0 Saloon・Acura RSX)の開発・生産を中止し、関連資産の減損・評価損として今期(2026年3月期)に8,200億〜1兆1,200億円の営業費用を計上する。中国合弁投資の減損も加わり、最大の累積損失は2.5兆円に達する見込みで、1957年の株式上場以来初の最終赤字(最大▲6,900億円)が確定的となった。
ただし、この損失は「構造的な事業の劣化」ではなく「戦略コストの前倒し計上」と見ることもできる。ホンダのハイブリッド車(HV)事業は依然として競争力を保っており、北米・日本市場でのプレゼンスも堅固だ。損失発表後の株価はPBR0.37〜0.42倍前後まで下落しており、市場がワンタイムチャージを過剰に織り込んでいる可能性もある。バイク事業(世界首位)という稼ぎ頭も存在する。来期以降の「EV費用なき」ベース収益力をどう評価するかが、株価回復のカギとなろう。
日産:EV偏重が招いた構造的苦境
日産(TSE:7201)の苦境はホンダとは性質が異なる。同社はHVを持たず、EV(リーフ・アリア)とガソリン車の二本柱に依存してきた。世界EV市場でのBEV需要鈍化と中国・テスラとの価格競争が直撃し、2期連続の最終赤字(今期予想:▲6,500〜6,700億円)が見込まれる。
対策として2万人超の人員削減・7工場閉鎖を発表しているが、HV不在という構造問題は短期では解決しない。「EVが売れる前提」で設計した事業構造が、需要の現実の前に露呈した格好だ。
トヨタ:消費者の本音に一番近くいた会社
トヨタ(TSE:7203)は今期(2026年3月期)、売上高50兆円超・営業利益4.5兆円前後と予想されており、日本製造業史上でも例を見ない規模感に達しつつある。
その強さの源泉を一言でいえば、「消費者が実際に買うもの」を作り続けたことに尽きる。プリウスがヒットしたのは「エコだから」ではなく「燃費がよくて財布に優しく、乗りやすい」からだ。その実利的なHV技術をベースに、HV・PHEV・BEV・FCEV(水素)の全方位ポートフォリオを構築した。規制には従いながら、市場の現実から目を離さなかった。
レクサスブランドの高付加価値展開、数年待ちの受注残を抱えるランドクルーザーも、同じ文脈だ。「欲しい」という感情に火がついた商品は、補助金がなくても売れる。
スズキ:内燃機関の本質的な価値を知っている会社
スズキ(TSE:7269)は、大手3社とは異なる立ち位置で独自の存在感を示している。日本国内の軽自動車市場においてはダイハツ(トヨタ傘下)と並ぶ最大手であり、乗用車全体でもトヨタを超えるシェアを誇る軽専業の強者だ。
ジムニーはその象徴だろう。2018年のフルモデルチェンジ以来、現在も納車まで数年待ちという状況が続く。コンパクトなボディ、本格4WD、あの排気音と振動——数値では説明できない「欲しい」が積み上がった結果だ。テスラやBYDとは競合しない。そもそも土俵が違う。
海外ではインド子会社のマルティ・スズキ(Maruti Suzuki)がシェア約40%を維持し、経済成長とともに着実に拡大している。EVの普及より実用的で安価な内燃機関・HV車が求められる新興国市場で、スズキの強みは際立つ。
創業家経営が象徴する保守的・実利的なスタイルで、大きな賭けをせず、手が届く市場に集中してきた。ある意味で「商売の基本」を一番忠実に守ってきたメーカーだ。
まとめ:市場の審判
| メーカー | EV戦略 | 足元の財務 | 強み |
|---|---|---|---|
| トヨタ | マルチパスウェイ | 盤石 | HV先行、規模・ブランド |
| ホンダ | EV撤退→HV回帰 | 一時赤字(PBR割安) | HV・バイク事業 |
| 日産 | EV偏重 | 構造的赤字 | EV技術(HV不在が課題) |
| スズキ | 小型HV・ガソリン中心 | 安定 | 軽自動車・インド・ジムニー |
今回のホンダの撤退は、EV市場における合理的な判断だ。しかし、より本質的な問いはこうだ——環境活動家が正しいと言い、政治家が補助金で後押しし、ESG投資家が圧力をかけた「EV」という商品を、消費者は本当に望んでいたのか。
エキゾーストのない車に乗って楽しいか。長距離で充電の心配をしながら走りたいか。補助金が切れても同じ金額を出すか。
市場はその問いに、淡々と答えを出し続けている。思想家や政治家が商品を決めることはできない。ユーザーなきメーカーは存立しえない——それが商売の基本ではないのか。
出典・参考: - ホンダ業績修正開示(2026年3月12日): TDnet - 英語版 (Japan Earnings Insights) - 各社IR・決算短信(TDnet)
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