日本人はもう日産にさよならした。ディーラーの評判、整備費用のブログ、クルマ好きのフォーラム——消費者の答えはとっくに出ている。日産は「選ぶブランド」ではなく「避けるブランド」になった。今の日本で日産の新車を買う積極的な理由を見つけるのは難しい。

ホンダは違う。居酒屋でバイクの話題が出れば、たいていホンダの名前が出る。F1を見る人間はまだエンジンの話をする。「ホンダはもうダメだ」という言葉は、まだ聞こえてこない。

その温度差——消費者の感覚と株価のギャップ——こそが、今回の投資論の出発点だ。

決算が悪く見える理由、それが重要

ホンダのFY2026第3四半期累計決算は、ヘッドラインだけ見れば確かに厳しい。

項目 FY2026通期予想 前期比
売上高 21.1兆円 △2.7%
営業利益 5,500億円 △54.7%
純利益 3,000億円 △64.1%
年間配当 70円/株 +2円

四輪事業は1,664億円の営業赤字。ただし、内訳を見ると話は変わる。EV関連の一時損失2,671億円、関税影響2,898億円——この二つを除いた営業利益は約1兆1,485億円になる。これはホンダの過去の実力に近い水準だ。

壊れた企業ではない。間違った技術に賭け、損失を一気に計上し、方向を変えようとしている企業だ。

誰も語らない二輪車ビジネス

四輪のEV損失が注目を集める裏で、二輪車セグメントは営業利益5,465億円(前期比+448億円)を静かに稼いだ。

ホンダは販売台数ベースで世界最大の二輪車メーカーだ。インド、ベトナム、インドネシア、ナイジェリア——新興国では、中国メーカーが何年かけても真似できないブランド価値がある。「壊れない」という評判だ。

二輪車が家族の主要な収入手段であるような市場では、信頼性はプレミアム機能ではなく購買判断の全てだ。ホンダのサービス網、部品供給、数十年かけて積み上げたブランド信頼は、価格競争力だけの中国製品が越えられない堀になっている。

二輪事業の収益力だけを見ても、株価1,270円は理屈が合わない。

F1とIndy500が示す技術力の証明

ホンダは2026年シーズンからアストンマーティンF1チームにパワーユニットを供給している(RA626H、1.6L V6ターボ+電動50:50)。インディカーでも複数年の供給契約を更新し、2028年には米国製新型V6エンジンを投入する予定だ。

これは広告宣伝ではない。F1とインディカーは、市販車に繋がるモータースポーツの中で最も過酷な条件下で最高の出力密度を要求される。その舞台で戦い続けているということは、エンジニアリング能力が生きているということだ。EVへの賭けは資本配分の失敗であって、技術の失敗ではない。

円安×株安の二重割安

海外投資家にとって、ホンダの話にはもう一つの次元がある。

現在の株価1,270円、為替150円/ドルで換算すると、ホンダ株は1株約8.5ドルに相当する。

3年後に株価が2,000円に回復し、円が120円/ドルに戻れば——1株約16.7ドルになる。

ドルベースでほぼ2倍のリターンが、株価回復と円高という二つの独立した追い風から得られる計算だ。

円高のシナリオは過激な仮定を必要としない。ホンダをはじめとする日本メーカーが米国生産に大規模投資を進めることで構造的な円需要が生まれる。日銀は緩やかながら利上げサイクルに入っている。地政学的な不安定さが落ち着けば、2024年に市場を揺らした円キャリー取引の巻き戻しが、より持続的な形で進む可能性が高い。

リスクを正直に言う

簡単な投資ではない。米国の関税政策は依然として予測不能で、ホンダの北米生産は広範な露出がある。EVの戦略的後退は、プレミアムEVセグメントでのブランド地位を一部損なう。F1パワーユニットにも2026年初頭のテストで「異常振動」の問題が報告されており、未解決ならコストと集中力を奪う。

配当性向93.3%も要注意だ。年70円の配当継続を経営陣は宣言しているが、この水準の利益が続けば持続不可能になる。

来期業績予想

ホンダはFY2026通期予想を据え置いている:

項目 FY2026通期予想 FY2025比
売上高 21.1兆円 △2.7%
営業利益 5,500億円 △54.7%
純利益 3,000億円 △64.1%

経営陣の暗黙のメッセージは明確だ。EV損失を今期に集中計上し、四輪を安定させ、二輪で収益の床を作る。市場が正常化後の利益でホンダを再評価するか、それとも今期の損失計上サイクルを引き続き織り込み続けるか——それが今後12ヶ月の核心的な問いだ。

注目ポイント

  • 関税の方向性: 日米間の貿易交渉で自動車関税の不透明感が晴れれば、即座に株価の触媒になる
  • EV損失の完結性: FY2026で本当に一掃されるのか、FY2027に追加計上が出るのか
  • 二輪販売動向: インド・東南アジアの需要が収益の床を支えられるか
  • F1の戦闘力: アストンマーティンの競争力がホンダの技術ナラティブを世界に発信できるか

株価は傷ついた企業の値段をつけている。ブランド、技術、そして収益の実力は、別の話をしている。


出典: TDnet 適時開示 | Honda Global IR | English version

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