消費税は「平等な税」ではない
消費税は一見、誰にでも平等に見える。買い物をすれば10%、所得に関係なく同じ税率だ。
しかし実態は逆だ。消費税は構造上逆進税——所得が低いほど負担率が重くなる。高所得者は収入の一部を貯蓄に回せるが、低所得者はほぼ全収入を消費に充てざるを得ない。消費に対して一律に課税すると、低所得者の実質的な税負担率は高所得者より高くなる。
年金生活者、非正規労働者、子育て世帯——消費税率が3%から10%へと3倍以上に引き上げられた35年間、その重みを最も感じてきたのはこの層だ。
そして輸出大企業のように「還付」を受け取る仕組みは、彼らには存在しない。
実質賃金が示す「失われた35年」
賃金の数字を見ると、この構造のコストが誰に転嫁されてきたかが分かる。
1990年代以降、日本の実質賃金はほぼ横ばいで推移してきた。同期間に、米国・英国・ドイツなどの主要先進国では実質賃金が着実に上昇している。日本だけが取り残された。
消費税率が上がるたびに、可処分所得は実質的に目減りした。賃上げが追いつかない中で、税負担だけが増え続けた。大企業が法人税減税と消費税還付で恩恵を積み重ねた同じ時間軸の上で、庶民の購買力は静かに削られていった。
新興企業が生まれない国
もう一つの「割を食う側」は、これから生まれるはずだった企業だ。
中小企業庁・内閣府のデータによれば、日本の開業率は長年5%前後で推移している。英国・フランスの開業率は13%前後——日本の2倍以上だ。
なぜ日本では起業が少ないのか。理由は複合的だが、税制の構造も無関係ではない。消費税の還付恩恵を受けるのは輸出比率の高い大企業だ。国内向けに事業を立ち上げる中小・スタートアップは還付の恩恵がなく、消費税を丸々負担する側に立つ。
さらに、法人税減税の恩恵も「利益の大きい企業ほど大きい」という性質上、赤字や低利益が続く創業初期の企業にはほとんど関係がない。
制度は既存の大企業に有利に設計され、新しい挑戦者には冷たい。開業率5%という数字は、その結果だ。
企業誘致の「お題目」が崩れた先に
第1回・第2回で確認した通り、法人税減税の名目は「外資誘致・国際競争力強化」だった。その結果は、対内直接投資でOECD最下位・世界201カ国中最下位という惨状だった。
外資は来なかった。国内の新興企業も育たなかった。大企業は海外に出ていった。
残ったのは、消費税という逆進税と、それを原資とした大企業への還付制度だ。
内閣府の資料によれば、日本政府は「2030年に対日直接投資残高80兆円」を目標に掲げている。しかし現状の税制構造を変えずに外資が来るかどうか——答えは過去35年が示している。
「緊急避難」から「既得権益」へ
バブル崩壊後、日本経済が本当に苦しかった時代、大企業を守る税制には一定の論理があったかもしれない。雇用を守り、産業基盤を維持するための「緊急避難」として。
しかし2020年代、輸出大企業は円安効果と消費税還付で空前の利益を上げている。実質賃金が下がり、物価が上がる中で、消費税という逆進税の負担は庶民に重くのしかかる。
制度が環境に適応せず生き残るとき、そのコストは常に最も声の小さい側が払う。
「誰のための税制改革だったのか」——35年前の問いへの答えは、今の数字の中にある。
本稿は3回シリーズの最終回です。第1回「消費税はなぜ導入されたのか」、第2回「輸出大企業は2.7兆円の補助金を受け取りながら、なぜ日本を捨てるのか」もあわせてご覧ください。
出典: 中小企業白書 開業率国際比較 | 内閣府 対日直接投資の現状 | 財務省 税収に関する資料
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