params: ticker: “TSE:2995, TSE:8921” reviewed: “edit” image: “/images/analysis/tokyo-prime-real-estate-demand-shift/thumb.png”

2026年8月、都心の不動産関連企業2社の決算短信が、東京の不動産市場が抱える矛盾を映し出した。ジェイレックス・コーポレーション(2995)は自社開発の都市型マンション事業で営業利益が前期比54.1%増、C’s Create(8921)は区分建物買取再販事業の好調を理由に通期の営業利益予想を10.4%上方修正した。両社とも都心の高額物件需要の強さを決算資料で明言している。

東京の不動産投資額推移 図1: 日本の商業用不動産投資額の推移(JLL調べ)

一方でメディアでは「潤日」と呼ばれる中国人富裕層の日本撤退が話題になっている。背景は2つある。1つは2025年10月施行の経営・管理ビザ厳格化(資本金要件が500万円から3000万円に引き上げ)、もう1つは中国国内の不動産バブル崩壊によるキャッシュ化需要だ。実際、都心6区の中古マンション価格は2026年2〜3月に2ヶ月連続で下落し、3年ぶりの潮目変化とも指摘される。

ではなぜ、それでも都心の不動産投資額は過去最高を更新し続けているのか。円安だけでは説明がつかない。日本の不動産ローン金利は1〜2%と、米国(約6%)や英国(約5%)に比べ構造的に低く、借入コストと利回りの差(スプレッド)そのものが投資妙味を生んでいる。国際価格でも東京は依然として割安で、高級住宅賃料指数を東京=100とすると、ロンドン222、ニューヨーク192、香港157、シンガポール113と、主要グローバル都市の中で最も低い水準にある。加えてJLLは、米中対立を背景とした地政学リスク回避マネーが「中華圏を含む」形で日本に向かっていると分析しており、2025年の投資額に占める海外投資家比率は前年までの17%から38%へと急拡大した。個人の中国人富裕層が撤退する一方で、機関投資家としての中華圏マネーはむしろ流入しているという、一見矛盾する構図がここにある。

高級住宅賃料指数の国際比較 図2: 高級住宅賃料指数の国際比較(東京=100、日本不動産研究所調べ)

この需給構造の中で、2社の儲け方は対照的だ。J-REXは土地を仕入れて開発・分譲する正統派デベロッパーで、自社開発物件の企画・販売拡大がセグメント利益54.1%増を牽引した。対してC’s Createは中古を買い取って転売する事業モデルで、都心の中古マンション販売の活発さ、すなわち「回転(流動性)」そのものが利益の源泉になっている。前期実績で売上高117億円・営業利益7.3億円だったところ、今期は売上高153億円・営業利益12.4億円まで伸びる見込みだ。

企業別の増益ペース比較 図3: J-REXとC’s Createの増益ペース比較(前期実績→当期実績・予想)

裏を返せば、地方の不動産市場のように需要も流動性も乏しい場所では、開発型・回転型のどちらのビジネスモデルも機能しにくい。東京都心の独歩高は、円安という単純な入り口の先に、金利差・国際価格差・地政学的資金シフト・機関投資家の多様化・東京一極集中という複数の構造要因が重なった結果であり、中国人個人投資家の動向だけでは語れない。ただし中古価格の連続下落という潮目のサインは、今後の需給バランスの変化を占う上で注視すべき指標だろう。


出典: 各社決算短信(TDnet)、日本不動産研究所「国際不動産価格賃料指数」、JLL「日本不動産投資市場」レポート | English version

免責事項 | 本記事は情報提供を目的としており、投資推奨・売買指示ではありません。