ニレコ(TSE:6863)は、スクリーニングで引っかかるような会社ではない。売上高110億円、営業利益率15.4%、自己資本比率82.6%、今期(2026年3月期)で創業100期。本業はフィルム・鉄鋼・印刷ラインの張力制御装置と位置検知センサーで、成熟した安定ビジネスだ。
その安定の裏側で起きている変身の方が、ずっと面白い。
4件のM&A、一貫した方向性
2017年から、ニレコは光学技術分野で4件の買収を実施している。それぞれが、深紫外(DUV)光学の垂直統合チェーンの一段を担う:
| 年 | 買収先 | 追加した機能 |
|---|---|---|
| 2017 | レーザー関連企業 | ファイバーレーザー・光学事業への参入 |
| 2019 | 光学技研 | CLBO結晶育成・精密研磨 |
| 2024 | 京浜光膜 | 真空蒸着による光学薄膜コーティング |
| 2025.10 | 応用光研工業 | 結晶光学(レンズ・プリズム・シンチレータ)+放射線測定器 |
共通するテーマは一つ——CLBO結晶を研磨・コーティングし、半導体検査装置向けレーザー光源に組み込む、という工程の川上から川下までの内製化だ。
CLBOとは何か
CLBO(セシウムリチウムボレート)は非線形光学結晶で、深紫外レーザー光の生成に使う。DUVレーザーは半導体検査装置の心臓部——KLA(NASDAQ:KLAC)、日立ハイテク(日立製作所 TSE:6501 の完全子会社、2020年上場廃止)、レーザーテック(TSE:6920)といったメーカーが製造する欠陥検出装置に不可欠な部品だ。チップが微細化するほど検査要件は厳しくなり、高仕様DUV光学部品への需要は増す。
半導体検査向けDUVレーザー市場の規模は年間約34億円($34M)、CAGR約10%。半導体装置全体から見れば小さい。しかし技術要件は高い——検査装置グレードのCLBOは、量産コモディティ品では満たせない結晶精度を要求する。ニレコの子会社・光学技研は、そのグレードを安定供給できる数少ないメーカーの一つだ。
成果は数字にも表れ始めた。2026年3月期Q4のオプティクス事業受注残は前期比**+47%**。来期(FY2027)ガイダンスの売上高125億円(+13.4%)は、応用光研工業の通期連結効果とオプティクス拡大が大半を説明する。
利益率の統合が問われる
最も重要な短期課題は、応用光研工業の利益率をどこまで引き上げられるかだ。
取得価額は82億円——純資産94億円に対してほぼ純資産価格での買収。割高ではないが、利益面は厳しい。応用光研工業のFY2025営業利益率は3.1%(売上137億円に対して営業利益4億3,000万円)。ニレコ本体の15.4%との乖離は12ポイントある。
このギャップが統合のチャンスでもある。原子力発電所・自治体向けの放射線測定器ビジネスは安定しているが、官公庁調達型の構造上、高利益率は期待しにくい。一方、結晶光学部門(レンズ・プリズム・CLBO)はニレコのコスト・価格規律を移植できれば改善余地がある。FY2028までに利益率が二桁に届くかどうかが、この買収の採点基準になる。
資本政策:見かけより精巧
ニレコの資本配分は、受け身ではなく意図的に設計されている。
2025年12月、自己株式26.1万株・約5億円の買い付けを完了した。これに先立つ2025年5月の取得試みは、市場価格が上限を超えたため7,700株しか買えず、ほぼ不発に終わっていた。その後11月に同じ予算枠を再設定し、今度は完遂した。
2026年7月31日(権利付き最終日:7月30日)に効力発生する1→3の株式分割が、次の資本政策を読み解く鍵になる。分割後は同じ5億円の予算で3倍の株数を取得できる。高値で自社株買いに苦労した会社にとって、分割は「より有効な自社株買いのための準備」という側面を持つ。
株主構造もこの読みを補強する。筆頭株主は取引先持株会の6.6%、次いで商社・極東貿易の6.4%。個人株主が59%を占め、支配株主は存在しない。浮動株を継続的に自社株買いで吸収していくことは、資本効率向上と同時に、経営の安定性確保にもつながる。
稼ぐ→蓄積→M&A→自社株買い→分割→さらなる自社株買い、という資本循環の設計は、受動的なバランスシート管理とは異なる。
この資本政策には、経験に裏打ちされた担い手がいる。2023年に就任した中杉真一社長は三菱商事出身で、国内外の製造業支援から現地法人経営まで幅広いキャリアを持つプロ経営者だ。光学M&A戦略そのものは前任の久保田社長が起点だが、資本効率・株主還元を軸にした資本政策の整備は、三菱商事で鍛えられた目線が加わって以降に形になった。
注目すべき2点
① 応用光研工業の利益率推移。 FY2028までに3%から二桁水準に改善できれば、82億円の買収は割安だったと評価が変わる。3%近辺に留まれば、成長はあっても収益へのリターンが伴わない買収になる。
② 分割後の資本政策発表。 7月31日の分割後に新たな自社株買いが発表されれば、資本循環の意図が確認される。発表がなければ、分割は個人投資家への間口拡大に留まる。
ニレコは短期の再評価を狙う銘柄ではない。売上110億円でオプティクス拡大が途上にある今、市場が垂直統合テーゼを織り込むには証拠の積み上げが必要だ。しかしその部品は揃いつつある——そして経営陣はほぼ10年かけてそれを組み立ててきた。
出典: ニレコ IR | TDnet 適時開示 | English version
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