第1話では高市内閣の資源外交が「脆弱な日本」の物語を塗り替えつつあることを見た。第2話では受益企業を層別にマップした。第3話では、資源調達の商流全体を上流から下流まで追いながら、「どのタイミングで何が株価に反映されるか」を考える。
商流の全体像
資源調達は3つの層で動いている。
【上流】権益保有・採掘・生産
INPEX(1605)、豪州LNG権益各社
↓ 原油・ガス・レアアース原石を「作る」
【中流】売買・物流・加工手配
三菱商事・三井物産・住友商事・伊藤忠・双日
↓ 「運んで売る」、マージンと情報で稼ぐ
【下流】精製・分解・製品化
ENEOS・出光興産・三井化学・三菱ケミカル
↓ 原料を製品に変える
【消費層】
自動車・電機・医療・包装……
それぞれの層で、稼ぎ方も、株価への反映タイミングも異なる。
上流:INPEX(1605)——「作る側」の静かな主役
INPEX(国際石油開発帝石)は国内最大の資源開発会社で、政府が大株主だ。カスピ海のカザフスタン・アゼルバイジャン油田に約7〜9%の権益を保有し、日量約7.8万バレルを生産している。
従来この原油はコスト面から欧州へ販売されていた。だが2026年3月30日、INPEXは中央アジア産原油を日本企業向けに優先販売する方針を発表した。ホルムズ封鎖後の中東依存低下を政府と連携して進める判断だ。
INPEXは「作る側」であり、売り先は主に商社や国内精製会社に渡る。株価への影響は原油価格と権益量の掛け算で動くが、今回の政策転換は「日本向け供給を優先する信頼できる国内上流」というポジションの価値を高める。
中流:商社——情報と物流で「差分」を稼ぐ
商社の本質は情報の非対称性と物流ネットワークの掛け算だ。どの産地が安いか、どのルートが空いているか、どの相手が交渉できる状態か——この情報を持つ者が中流で稼ぐ。
今回のように調達先が中東からアフリカ・米国・中央アジアに分散すると、情報格差と物流コストが拡大する。つまり商社のマージンが厚くなる局面だ。
各社の稼ぎ方の違い
| 商社 | 中流での強み | 今回の局面での立ち位置 |
|---|---|---|
| 三菱商事(8058) | 原油・LNG・レアアースの権益保有で上流にも足がかり | 上流と中流の両取り |
| 三井物産(8031) | 豪州LNG権益、ナフサ関連(三井化学と連携) | 上流権益からの優先供給 |
| 住友商事(8053) | Lynas経由のレアアース長期契約 | 希少資源の「売り手」側 |
| 伊藤忠(8001) | 北米エネルギーネットワーク、石炭・LNG | 米国産急増分の取り扱い増 |
| 双日(2768) | インフラ・プラント案件+レアアース新規参入 | 新産地との関係構築で長期パイプ確保 |
注目は三菱商事と三井物産が「上流」にも足を持っている点だ。権益保有者は相場が上がれば利益が増え、供給が逼迫すれば稀少性プレミアムを乗せられる。商社の中でも、権益の厚さが今回の差になる。
下流:精製・化学——「コスト正常化」がトリガー
ENEOS(5020)・出光興産(5019)
精製会社の収益は原油調達コストと製品販売価格のスプレッドで決まる。迂回ルートによる調達コスト上昇はスプレッドを圧迫するが、供給が安定すれば製品価格への転嫁も進む。
株価のカタリストは「コストの予見可能性が戻る」タイミングだ。イランが安定するか、迂回ルートが「標準」として定着するかのどちらかで、この層は動く。
三井化学(4183)・三菱ケミカル(4188)
ナフサ調達コストが高止まりしている間は利益率が圧迫される。ただし、最悪シナリオ(エチレン設備の全面停止)は3月末に回避済みだ。
この層への投資タイミングは他の層より遅い。「止まるリスクがなくなった」だけでは株価は動きにくい。「コストが下がり始めた」というシグナルが必要だ。
投資タイミング:何が「引き金」になるか
3層の商流を踏まえると、株価への反映順序が見えてくる。
フェーズ1:不確実性の解消(今ここ)
→ 商社・三菱重工が動く
米中首脳会談(5/14-15)で貿易休戦が延長されれば、関税不確実性が一段落する。日本企業の保守的なFY2026ガイダンスへの上方修正期待が生まれる。この段階で最初に動くのは、不確実性の解消が直接収益に効く商社と、受注確定済みの三菱重工だ。
フェーズ2:代替調達の定着確認(1〜3ヶ月後)
→ ENEOS・出光興産・INPEXが動く
迂回ルートが「緊急措置」から「通常運転」に切り替わるタイミング。調達コストの予見可能性が高まり、精製マージンが安定する。FY2026の第1四半期決算(7〜8月)あたりで確認できる数字が出てくる。
フェーズ3:コスト正常化(イラン情勢の安定後)
→ 三井化学・三菱ケミカル・ニプロが動く
中東情勢が落ち着き、喜望峰迂回の追加コストが不要になるタイミング。このフェーズは最も読みにくいが、反転幅も最大だ。今がボトムと判断できれば、コスト圧迫局面に仕込んでおく価値がある。
結論:「上流から下流まで」を意識した分散
3話を通じて見えてきた構造をまとめると:
- 上流(INPEX):原油価格と政策に連動。安定したキャッシュフロー
- 中流(商社):混乱期ほど稼ぐ。今が旬。権益を持つ三菱商事・三井物産が厚い
- 下流精製(ENEOS・出光):迂回コスト定着で安定化。フェーズ2で
- 下流化学(三井化学・三菱ケミカル):コスト正常化待ち。最後に動くが反転は大きい
「今すぐ全部買う」ではなく、フェーズに合わせて層を変えていく——資源商流の構造を理解することが、日本株の次の動きを先読みするための地図になる。
出典: 時事通信 – INPEX中央アジア産原油優先供給 | 日経 – 商社LNG権益マップ | 双日 事業紹介 | Nikkei Asia – ナフサ代替調達
免責事項 | 本記事は情報提供を目的としており、投資推奨・売買指示ではありません。