市場は今も「脆弱な日本」を割り引いている。中東依存90%超の原油、ホルムズ封鎖に直撃されるナフサ、中国が握るレアアース——この物語が株価に織り込まれている。だが、その物語は1〜2年前のものだ。
「存在感のある首相」という変化
2025年10月に就任し、2026年2月の総選挙で信任を得た高市早苗首相の政権は、選挙で明確な民意の後押しを受けた「強い内閣」だ。その内閣が動くと、近年の日本の政権とは趣が異なる。首相が直接電話をかけ、交渉し、合意を引き出す。外交日程を追うだけで、資源調達の地図が書き換えられているのが見える。
| 相手国・機関 | 成果 |
|---|---|
| イラン(ペゼシュキアン大統領) | 出光タンカーのホルムズ通航を無償で合意 |
| サウジアラビア(MBS皇太子) | ホルムズ迂回原油の安定供給を要請・確保 |
| メキシコ(シェインバウム大統領) | エネルギー協力+経済安保の新対話枠組みを提案 |
| ベトナム | エネルギー・重要鉱物協力で合意(POWERRアジア構想、総額100億ドル規模) |
| IEA | 日本分8,000万バレルの戦略備蓄放出で時間的余裕を確保 |
「やっている」かどうかは、結果で分かる。
数字の奥にある「なんとかする力」
「日本の原油の9割は中東産」——この言葉はよく聞かれるが、本質を捉えていない。確かに2024年の中東依存度は95.4%に達していた。2025年末には88%まで下がり、米国からの輸入は前年比8.5倍に急拡大した。だがこの数字はあくまでスナップショットだ。状況が落ち着けば、コストの安い中東ルートに引き戻される部分もある。
重要なのは数字ではなく、その背後にある「なんとかする力」だ。迂回ルートを探し、代替産地を開拓し、備蓄を放出し、首相が直接電話をかける——日本は資源を持たないがゆえに、この問題解決の反射神経を何十年もかけて磨いてきた。
そして資源を持たない国には、もう一つの強みがある。裏切れない、という外交的誠実さだ。エネルギーも食料も輸入に頼る国は、相手国との信頼を壊す選択肢を持ちにくい。結果として、いざというときに協力してくれる国が「意外と多い」。
2011年3月11日、東日本大震災の直後に世界150カ国以上から支援が届いた。あれは単なる人道支援ではなかった。日本が長年積み上げてきた外交的信用への返礼でもあった。今回のホルムズ危機でイランが日本タンカーを無償通過させ、サウジが迂回原油を優先供給したのも、同じ文脈で読める。
ナフサショック:最悪シナリオはすでに回避済み
石油化学の基礎原料であるナフサは、ホルムズ封鎖の影響を直撃した。国内10ヶ所あるナフサ分解設備のうち6ヶ所が減産・調整を迫られ、3月末には「エチレン設備の全面停止」という最悪シナリオが現実味を帯びた。
しかし結果は異なった。米国・アルジェリア・ペルーからの代替調達が加速し、5月の非中東産ナフサ輸入量は**平時比3倍(135万キロリットル超)**に到達する見込みだ。高市首相は「年明け以降も供給継続が可能」と明言している。
コスト問題は残る。喜望峰ルートは輸送日数が+14日、燃料コストが1.5倍になる。ただし「止まる」リスクと「高くなる」リスクは、市場への影響が全く異なる。
レアアース:15年越しの伏線回収
2010年、中国は尖閣問題を巡りレアアース輸出を事実上停止した。あの屈辱が、以後15年間の多角化投資を生んだ。その成果が今、まとめて表れている。
- 住友商事×Lynas(豪州):ネオジム・プラセオジウム年間7,200MT、2038年まで長期供給契約更新
- JX金属:豪州レアアース鉱床に出資、日本連合として参画
- 南鳥島海底採掘:2026年2月、水深5,700mでの採掘に世界初成功、2028〜30年の本格化へ
- プロテリアル(旧日立金属):ジスプロシウム・テルビウム不使用のレアアースフリー磁石を量産開始
中国の精製シェアは依然91%を占めるが、原料調達と製品技術の両面で「出口」が増えている。
日豪:資源×防衛の二重バインド
資源代替の象徴がオーストラリアとの関係深化だとすれば、その深さを示す出来事が4月18日にあった。
豪州海軍の次期汎用フリゲート艦として、三菱重工業が提案したもがみ型護衛艦が採用され、メルボルンで正式契約が締結された。総額1.7〜2.3兆円(A$100億)、11隻建造——日本史上最大の防衛輸出案件だ。
軍艦の売買は単なるビジネスではない。技術情報の共有、共同訓練、維持整備の連携が20〜30年にわたって続くことを意味する。Lynasのレアアース供給、LNGの長期権益、そしてフリゲート艦の共同建造——日豪の結びつきは「取引」から「同盟」の領域に入った。国が近くなるとき、資源の流れも安定する。
「最後の仕込み場所」という仮説
日経平均の予想EPSは1ヶ月で2,495円から2,401円に下落した。企業が関税リスクを保守的に織り込んだ来期ガイダンスを出したからだ。市場は「イラン不透明+関税不透明=日本割り引き」という構図を維持している。
しかし実態は違う。迂回ルートは5月から動き、代替調達は平時の3倍に達し、日豪の絆は軍艦の契約に結実した。5月14〜15日の米中首脳会談で貿易休戦が延長されれば、不確実性の霧はさらに晴れる。
市場が「古い日本像」で割り引いている今が、長期投資家にとって最後の仕込み機会になる可能性がある。次回は、この構造変化の恩恵が具体的にどの企業に落ちるかを探る。
出典: Japan Times – ホルムズ迂回原油 | Bloomberg – もがみ型フリゲート契約 | Nikkei Asia – ナフサ代替調達 | Lowy Institute – 脱中国レアアース | JETRO – 日豪フリゲート契約
免責事項 | 本記事は情報提供を目的としており、投資推奨・売買指示ではありません。